現在、世界中で大流行しているバイオエタノール。それは主にトウモロコシやサトウキビを原料とし、生産されています。化石燃料は新たに作ることはできません。しかしバイオエタノールの原料は農地で新たに作ることができ、枯渇することがありません。また原油が高騰しているため、自国で原料となる作物を大量生産している国では原油を輸入するより、代替燃料としてバイオエタノールを製造した方が安上がりです。もちろんバイオエタノールの大量生産で原料の価格が高騰するという皮肉な事態になっている今はどうか知りませんが…なお、どれくらいの原料がエタノールになるかというと、1tのトウモロコシで336.9L、サトウキビで56.8L、1ha(100m×100m)のトウモロコシで2132L、サトウキビで5191Lです。面積ベースでサトウキビが逆転するのはトウモロコシより高密度に栽培できるからです。
バイオエタノールを燃やして発生した二酸化炭素は植物が吸収していたものが再放出されただけであり、新たに大気に追加することにはならず、差し引きゼロと考えられます。このような考えをカーボンニュートラルといいます。これにより、バイオエタノールの燃焼で発生した二酸化炭素は排出量計算では無視されます。(プラスならカーボンネガティブ、マイナスならカーボンポジティブ)カーボンニュートラルの考えによれば、石油1Lの代わりにバイオエタノール1Lを使えば石油1L分の二酸化炭素を削減したことになります。このカーボンニュートラルにより、バイオエタノールは温暖化対策に非常に有効とされています。
しかし実際はそう簡単にカーボンニュートラルにはなりません。まずバイオエタノールの製造には原料を発酵させる必要ががあります。それには化石燃料が必要で、ある試算では100の熱を生み出すエタノールを生産するには化石燃料で74の熱を加える必要があります。さらに深く考えると原料を生産するのに使う農作業用機械にも化石燃料が必要です。なのでカーボンニュートラルを達成するのは、けっこう難しいです。当然、バイオエタノールは環境に優しいと言い切ることもできません。言い切るためには発酵工程に風力発電や太陽光発電で作った電力を使用するなど、何らかの改善が必要です。
あとバイオエタノールのようなバイオ・オイルは新技術ではなく、歴史は石油より古いです。ディーゼルエンジンはルドルフ・ディーゼル氏が試作したエンジンなのでそう呼ばれているわけですが、燃料はピーナッツ油でした。またヘンリーフォードはT型をエタノールで試作しました。しかし良いタイミングで石油が安く流通し始めたので、燃料を変えました。また日本の菜種油もバイオ・オイルの一種です。
バイオエタノールを積極的に導入しているのは原料であるトウモロコシを大量生産しているアメリカとサトウキビを大量生産しているブラジルです。
アメリカでは政府主導で普及が進んでいます。農家の支持を取りつけられる、価格が高騰している上、政情不安の中東にある石油依存を解消できる、環境志向というイメージを植え付けられる、穀物市場を通じてバイオエタノールを政治的に利用できる可能性がある、というメリットがあるためです。2005には150億Lのエタノールが生産され、ビルゲイツがパシフィック・エタノールに8400万ドルを投資するなどの動きもありました。さらに2006年のブッシュ大統領の一般教書で2025年までにバイオエタノールの利用により、中東産石油の依存度を25%以下にするという目標が示されました。
アメリカでは、2007年初めの時点で111の工場(204億L相当)が稼動していて、83箇所(234億L相当)の設備増設と工場新設が計画されています。これだけ生産設備を増設できるのは導入時に補助金が支給されるためです。包括エネルギー案では2012年までに国内生産量を284億Lにするという目標が設定されていますが、それを遥かに超える勢いです。そのうち、アメリカはトウモロコシを輸出しなくなるんじゃないという意見もあるほどです。また消費量も増え続け、2006年で189億L、2007年で265億L以上となっています。
また大豆からはディーゼル燃料を作ることができます。バイオ燃料としてはトウモロコシ由来のエタノールより良く、エタノールは投入分より25%多いエネルギーを生み出すのに対し、大豆ディーゼルは93%増で、二酸化炭素削減効果も高いです。EUではディーゼル自動車が普及しつつありますが、排気ガスとして黒煙がでるため、日本では敬遠されています。
主な用途は自動車用ガソリンとの混合です。ガソリンをバイオエタノールで代用すれば、カーボンニュートラルにより、ガソリンの燃焼で発生するはずだった二酸化炭素から製造工程で発生した分を差し引いた量が排出削減量に加算されます。3%混合すればE3、10%ならE10、と呼ばれます。そしてそれらの混合燃料に対応した自動車はフレックス車と呼ばれます。ブラジルでは1930年代からエタノールの混合が行われていたようです。
普及のためにアメリカでは、スタンド会社がバイオエタノールを1ガロン(3.78L)混合するごとに51セントの補助金が出るという制度があります。EUではバイオエタノールの最低使用率を設定しています。フレックス車はガソリン100%でも特に問題は無く、エタノールの混合はスタンド会社がやっています。ということで、バイオエタノールとフレックス車が普及した国では一般市民は意識しなくてもカーボンニュートラルによる排出量削減を行えています。
原料作物の生産が少ない日本ではバイオエタノールを加工したETBEという燃料をフランスから輸入したりして、2007年4月から首都圏の50スタンドでE3の燃料が販売されています。またブラジル製造のバイオエタノールをタンカーで輸入するという計画もあります。ブラジルの国営石油会社ペトロブラスと三井物産は共同で日本向けエタノールの製造工場を5箇所に建設し、10億Lの製造を計画しています。建設費は1箇所で285億円です。たとえ地球の反対側のブラジルから輸入したとしても、エタノール製造工程で排出される二酸化炭素が1Lあたり212g、タンカー(10万t級)輸送で発生するのが56g、1Lのガソリン燃焼で発生する量は1380g、自動車がエタノールで走行できるのは同量のガソリンの60%。なので、ガソリンをエタノールで代用すれば1380-(212-56)÷6×10で933gの排出量削減となります。またアサヒビールと農業・食品産業技術総合研究機構は沖縄の伊江島で高バイオマス量サトウキビの開発・研究を行っています。これからは従来の品種と同じ栽培面積で3倍以上の燃料を取り出すことが出来ます。計画ではサトウキビ30tを栽培し、エタノール1000Lとせっかくなので!?同時に砂糖2tも生産する予定です。2010年に実験は成功し、従来の品種と同じ栽培面積で5倍以上の燃料を取り出す新品種の開発に成功しました。っさらに2年間、実用化に向けた研究を行うようです。
国 | |
スウェーデン | 全土でE5、一部でE100 |
ポーランド | 一部でE10計画 |
中国 | 一部でE10 |
カナダ | 一部でE10 |
アメリカ | 全土でE10、一部でE85 |
フランス | ETBE15 |
ドイツ | 一部でE10計画 |
インド | 一部でE5とE10 |
日本 | 一部でETBE7(E3) |
オーストラリア | 一部でE10 |
ブラジル | 全土でE10、一部でE100 |
バイオエタノールには原料が食料なので、大量生産すると世界規模で食料高騰を引き起こします。トウモロコシについては飼料の原料でもあるので、各種の肉や卵、乳製品も高騰します。日本でも価格の優等生といわれた卵の生産が値上げか廃業かというところまで追い詰められています。また世界で生産された穀物を全人類に平等に配るだけで飢餓はなくなるといわれています。にもかかわらず飢餓があるのは先進国が肉の生産を行っているためです。1000cal分の牛肉を生産するには1800cal分の穀物が必要という試算があります。すると800calが消えることになります。こうして消えた分だけ飢餓が起きるというわけです。そこにダメ押しでバイオエタノールが入ってきてます。バイオエタノールは食料ではないので、1000cal分の穀物を使えば全てが失われることになります。一応、バイオエタノール製造後に残る絞りカス(DDGS)は飼料の原料になるので、それで多少は持ち直せます。ただあまりにDDGSが大量発生すると焼却処分することになり、ゴミ問題を引き起こす可能性もあります。
またバイオエタノールが環境に優しいというのは原料を生産している農家には関係ありません。農家はボランティアではなく、ビジネスとして農業を営んでいます。なので、アメリカでは他の作物からエタノールブームで高騰しているトウモロコシの生産に切り替える農家が増加しています。小麦からなら小麦製品全て、大豆なら大豆製品全てが高騰することになります。小麦はただでさえ、オーストラリアの干ばつで高騰しているのに、さらにバイオエタノールが価格を押し上げることになります。また日本の商社では低価格の大豆が超入手困難になっています。豆腐、みそ、納豆、しょう油のある日本にとって大豆の価格高騰は非常に厳しいです。これらを使用した全ての料理に影響が出るのですから。もちろん、豆腐入りみそ汁、しょう油を使った麺料理などでは各原料の価格高騰が合わさることになります。
バイオエタノールの生産国であるブラジルでも高い温暖化抑制効果を持つ熱帯雨林を切り開いたり、焼き払って原料作物の栽培が行われています。農家は利益が上がりさえすればよく、熱帯雨林の能力など関係ありません。現在、政府は日本の人工衛星の協力を得るなどし、監視を強めているので、これからは減ると思われます。
このように食料エタノールは問題だらけです。なので、次に紹介する非食料エタノール普及のための踏み台程度と考えるべきです。食料エタノールがゴールなら、しないほうがマシかも!?