食料を原料とするエタノールは大量生産されると、そのものだけでなく、その作物に転作されることで小麦、大豆などの別の作物、高騰した食物を原料に使う麺類、パン、しょう油、高騰した食物を飼料として使い生産される畜産物、その畜産物を原料とする製品、など非常に多くの食品を高騰させます。また国によっては畑をつくるために森林が違法伐採されています。トウモロコシ・サトウキビより大豆の方がエタノールの原料としては優れていたり、日本では米を原料にする計画があります。使用する作物の種類を増やせば、それぞれの価格上昇を抑えることはできます。しかし根本的な解決にはなりません。だからといって、バイオエタノールやそれを燃料にできるフレックス車が普及した今、エタノールを使用停止にするわけにはいきません。
しかし食用作物以外を原料にエタノールを生産し、ガソリンの代替燃料にできれば食料価格高騰を抑えることができます。もちろん、カーボンニュートラルによる二酸化炭素削減も行えます。ここで紹介しているような非食料エタノールが実用化されれば、食料エタノールの生産は制限すべきです。
例えばアフリカのジャトルファ(ジャトロファ)という植物からバイオ燃料を製造することができます。この植物は有毒なので、食用にはできません。また建設廃木材、おが屑、からもエタノールを製造することができます。バイオエタノール・ジャパン・関西は2007年1月16日に木材から燃料用エタノールを製造する工場を稼動させました。年間で4万8000tの廃材から140万Lのエタノールを生産できます。今後、設備を拡大し、生産能力を年間400万Lまで高める予定です。また砕いた木材から水素を発生させる
研究も進んでいます。実用化されれば、燃料電池などで利用できます。他に使用済み食用油からディーゼル燃料をつくりだすこともできます。日本の一部ではてんぷら油から作った燃料をバスに使っている地域があります。またアメリカには使用済み油を回収して回って、ディーゼル燃料を製造する企業に売る事業があります。さらにアメリカではマイクロフューラーという家庭用エタノール製造機が発表されました。水とコンセントからとった電気、安い非食用砂糖でフレックス車で利用できるエタノールを製造します。製造機は1万ドル、エタノールの製造コストは3.78Lで1ドルです。
非食料エタノールの中でも本命なのがセルロースです。セルロースは植物の繊維成分で、今までは捨てられていた成分でした。セルロースは食用植物の茎や葉など食用でない部分、木材や古紙、さらにはそこら辺の雑草にも含まれています。原料の価格はタダ同然で、食品価格高騰とも無縁で、ゴミの削減にもなりそうです。作るには、まずリグニンという物質と絡み合った状態で存在しているセルロースを分離します。次に分解して糖分を生成させます。そしてこの糖分を発酵させてエタノールにします。しかしどれも技術的に難しく、大ざっぱな予想生産コストは1L500円になり、ガソリンとは勝負になりません。なので、さらなる研究が必要です。それでもカナダのアイオジェン社は4000万ドルで実証用工場を建設。2年で25万L近く生産。ガソリンと混合し、実際に政府の車両で利用されています。今後、研究によるコスト削減は充分可能で、1L50円以下にできるという意見もあります。ある予測では2030年までにはガソリンに対抗できる燃料になるとみられています。
バイオエタノールは糖分を発酵させて作られます。この発酵は微生物によって行われます。この微生物の力を今まで以上に利用し、非食料エタノールを生産しようという研究もあります。日本では地球環境産業技術研究機構が遺伝子組み換えによってセルロースから高効率でエタノールを生成するバクテリアが研究されています。アメリカのSapphire Energy社では藻などの光合成生物を利用してバイオエタノールを生産する研究が進んでいます。生産には成功していて、今後はどこまで大量生産できるかが問題となります。害虫であるシロアリを利用する研究もあります。シロアリの体内には多種類の微生物がいて、中にはセルロースを分解する酵素をもっているものがいます。何とかしてその酵素を利用しようというわけです。ただ工業用に大量生産できるメドはついていません。他にジャングルに住む微生物の中にもエタノール生産に使える酵素を持つものがいるようです。
メリットは多いものの、現在、非食料エタノールは研究中で、すぐに実用化できるレベルではありません。一刻も早く、食料エタノールに取って代わるためにも政府などの支援が必要です。