現行の原発ではウラン鉱石に転換や濃縮などを行い、製造された核燃料を使用しています。その燃料を原子炉で核分裂させ、発生した熱で水蒸気を作り、タービンをまわします。核燃料の核分裂で発生する熱量が同じ重さの化石燃料を遥かに上回っているため、原子力発電は高効率です。また核分裂は二酸化炭素とは無縁であり、クリーンであるともいえます。しかし放射性廃棄物の発生や、事故時の放射線漏れが問題視されています。スウェーデンなどでは、計画が進みそうにない上、国民の80%が原発を支持していますが、原子力発電の廃止が検討されていたりします。それでも化石燃料の枯渇や価格高騰、地球温暖化問題が深刻化する中、アメリカでは火力発電を減らし、原子力発電に切り替えようとしています。一方、日本では逆に地震や検査で、原子力発電が減り、火力発電の中でも二酸化炭素排出量が最悪の石炭火力発電が増加しています。放射線漏れなどが極めて深刻に考えられている日本では原発新設は世論的に無理です。ただ原子力発電では燃えカスとでもいうべきものから新たな核燃料を製造することができます。世界ではこの核燃料サイクルが注目されています。
プルサーマルは日本が進めている核燃料サイクルです。ヨーロッパでは1960年代から行われています。名前は核燃料のプルトニウムと軽水炉(サーマルリアクター)を合わせた和製英語です。アメリカも計画中で、フランスでは現在、実施中です。日本のプルサーマルでは核分裂を起こしやすいウラン235を使用した普通の原子力発電所から出た使用済み核燃料から核分裂を起こしにくいウラン238とプルトニウムを抽出し、MOX燃料というものに加工します。それをまた原子力発電所で核分裂させます。廃棄されるはずの使用済み核燃料から新たな核燃料を作り出すため、同量のウランからより多くのエネルギーを取り出せます。
他に高速増殖炉を使う方法もあります。高速増殖炉ではMOX燃料を核分裂させつつ、使用済み核燃料中の普通は核分裂を起こさないウラン238から核分裂を起こすプルトニウムを作り出すことができます。その量は発電時に燃料として消費したプルトニウムを上回ります。(もんじゅで1.2倍)。生み出されたプルトニウムは使用済み核燃料中の未消費ウランと共に、新たなMOX燃料に加工されます。そして最終的には元のウランの数十倍のエネルギーを取り出せます。
一時、プルサーマル計画は高速増殖炉もんじゅで、冷却用の液体ナトリウムが漏れる事故が発生し、中断しました。しかし玄海原子力発電所3号機、高浜原子力発電所の3、4号機、浜岡原子力発電所、福島第一原子力発電所3号機、でのプルサーマル発電実施にそれぞれの所在地の県知事が許可を出しました。現在、玄海、高浜、さらに伊方原子力発電所3号機で実施中です。
しかし地震と津波という自然災害が原因とはいえ、福島第一原子力発電所
の冷却機能停止、放射性物質漏洩、により何か影響が出そうです。
新核燃料サイクルの中心はALMR(新型液体金属炉)です。
世界で唯一、アメリカだけがこれを国家プロジェクトとして研究していました。用途は核兵器を解体したときに出るプルトニウムの処分です。しかし1995年以降予算が付かなくなりました。よってALMRが実際に建設されることはなさそうです。あくまで理論上の原子炉ということです。
現行原発では冷却材の水で高速中性子を減速した低速中性子で核分裂を連鎖させています。低速中性子は制御しやすい上、高効率で核分裂を起こすからです。しかし核分裂を起こさないウラン238から核分裂を起こすプルトニウムを作り出す能力は低いです。なので、再処理をしなければ燃料中から取り出し可能なエネルギーの5%しか利用できません。また約3年で新規のウランが必要になります。さらにMOX燃料を使った核燃料サイクルでは使用済みMOX燃料が問題になります。それには強烈な放射能を帯びた超ウラン元素というものが多く生成されています。なので、事前にこの処分方法を考えておく必要があります。それらの問題点を解決した新型原子炉がALMRです。
ALMRでは冷却材として中性子を減速させない液体ナトリウムを使用します。高速中性子を発電に使うということです。その高速中性子は普通は核分裂を起こさないウラン238や超ウラン元素をも核分裂を起こします。超ウラン元素が核分裂を起こすので、通常の原発の廃棄物は数万年の隔離が必要なのに対し、ALMRの廃棄物はたった!?500年の隔離で済みます。
もちろんALMRの廃棄物といっても原子炉から排出されたままの状態ではありません。徹底的に再利用し終えた残りカスです。ALMRの使用済み燃料は高速中性子を使う現行の原子炉(高速炉)の使用済み燃料と共に新たな燃料に加工されます。ALMRでは現行原子炉では核分裂させられないウラン238と超ウラン元素を利用できますので、燃料中から取り出し可能なエネルギーの95%を引き出せます。新規のウランは数百年は必要ないとまでいわれています。