京都議定書(気候変動に関する国際連合枠組条約の京都議定書)は温暖化防止のため、先進国に温室効果ガスの削減を義務付ける議定書です。1997年12月11日に議決されました。一時はアメリカとロシアが拒否し、発効が危ぶまれていました。しかし2004年にロシアが批准を表明し、2005年2月16日に発効しました。
先進国全体の目標は二酸化炭素排出量を2012年までに1990年より5.2%削減することです。国別目標でも基準は各国の1990年の排出量です。それと2008から2012年(約束期間)の平均排出量を比べ、日本なら6%減少していれば目標達成となります。主な国の削減量は以下のようになっています。(排出量シェアは2004年の数値。EUのシェアは最大のドイツで3.2%、次がイギリスで2.2%、次がイタリアで1.7%など。)
署名国数は84、締約国数は172、合計排出量は63.7%となっています。
削減量 | 国 | 排出量シェア |
8% | EU15ヶ国合計 | ? |
7% | アメリカ | 22.1% |
6% | 日本 | 4.8% |
6% | カナダ | 2% |
6% | ポーランド | 少 |
6% | ハンガリー | 少 |
5% | クロアチア | 少 |
0% | ロシア | 6% |
0% | ウクライナ | 少 |
0% | ニュージーランド | 少 |
-1% | ノルウェー | 少 |
-8% | オーストラリア | 1.3% |
-10% | アイスランド | 少 |
削減目標達成のための道筋は非化石エネルギーの利用や省エネだけではありません。他に京都議定書では4つの制度(京都メカニズム)が利用できます。
1-吸収源活動は森林による削減です。森林は光合成で、二酸化炭素を吸収して酸素を放出します。その森林を増加させれば、二酸化炭素を削減したとみなすことができるのです。京都議定書では1990年以降の植林分だけが考慮されます。森林の多い日本とカナダはそれ以前の植林分の考慮(森林管理、放牧地管理、植生の管理)を求めていました。しかし森林の多い国が有利になり過ぎるため、実現しませんでした。特にカナダは無制限に認めればそれだけで削減義務がクリアされてしまうといわれています。
2-クリーン開発メカニズムは先進国が発展途上国に設備や資金を提供し、二酸化炭素を削減させればその一部を自国で削減したことにできる制度です。一般的に発展途上国は非効率な設備で発電や製品生産を行っています。例えば日本と同じ量の鉄を生産するために消費するエネルギーは先進国の韓国は1.07倍ですが、中国は1.29倍、インドは1.32倍となります。ここに先進国の技術を導入すれば、大幅な二酸化炭素削減が可能になります。なので、技術力の高い日本でもよく利用されています。なので、無茶ですが、中国の全製鉄所に日本並みの技術を供与すれば、2億tの二酸化炭素削減となり、全て認められれば、それだけで日本は削減義務をクリアできます。この方法は先進国は自国に削減の余地がなくても低コストで削減が可能になる、発展途上国は先進国の技術が導入できる、など双方にメリットがあります。ただ先進国の新技術開発の意欲が衰える可能性があります。
3-排出権取引は二酸化炭素を排出する権利を国同士で売買できるようにする制度です。削減義務以上に削減できた国が余った分を他国に輸出できる制度です。削減義務クリアが困難な国はこれを買い取ることで、自国で削減したことにできます。購入国は現金の力で確実に削減義務達成に近づくことができます。また削減義務クリアが達成できた国は排出権を輸出して代金を得ようとし、さらなる二酸化炭素削減を行おうとします。一方、購入国も輸入コストを抑えようとできる限りの削減を試みることでしょう。こうして双方で削減が促進されます。
4-共同実施は先進国相手のクリーン開発メカニズムです。先進国が先進国に技術提供などを行って排出量を削減し、自国の削減量に算入するということです。自国の超過分と相手先進国の削減量を相殺するため、先進国全体の排出量は変わりません。よって国別の削減義務達成のためには有効ですが、先進国全体の削減義務達成の役には立ちません。
もっとも順調なのはヨーロッパです。2005年の時点でEU全体では削減義務の半分の4%の削減に成功、イギリスは15.4%削減し、12.5%という国別目標をもう達成、フランスは7.1%削減し、0%という国別目標など知ったことか!といった感じ、スウェーデンは8.2%削減し、+4%でいいなんてナメてくれたものだな、といった感じ、ノルウェーは23.1%削減し、+1%って何?、など議定書の遥か先までいってます。以上の国の削減が非常に進んでいるのはEU内の排出権取引制度、炭素税など効果的な政策が実施されているからです。日本では経済界の駄々コネで実現される予定もないです。また徹底したアイドリングストップが行われていたり、スウェーデンでは50年前からゴミ出しが有料化されています。+15%の目標に対し、+59.8%のスペイン、+27%の目標に対し、+40.3%のポルトガル、+13%の目標に対し、+24.9%のアイルランド、など大幅超過の国もありますが、元の排出量が少ないため、完全にEUの他の国の削減量で相殺されています。ロシアも0%に対し、27.7%削減しています。これは基準の90年に存在していたソビエトが崩壊し、多くの重工業工場が閉鎖されたためです。
排出量世界一のアメリカは7%の削減義務に対し、16.3%の増加となっています。なので、自主的な取り組みがあるものの、達成は不可能そうです。オーストラリアは目標値が+8%なのに対し、4.5%の増加と現時点ではクリアしています。カナダは6%の削減義務に対し、54.2%の増加となっています。なので、もうあきらめています。しかし排出量シェアは世界の2%ですので、他国の削減で相殺できそうです。日本は6%の削減義務に対し、7.1%(環境省発表は7.8%)の増加となっています。というわけでホスト国にもかかわらず、達成は絶望的です。まずこの6%という数値はなんとなーく適当に決めたもので、達成できる確証など初めからないです。また"世界トップクラスの省エネ技術をもっているのになぜ?"と思う方もいるでしょうが、だからこ今より削減する余地がないと考えることもできます。しかしホスト国の目標値が低くては批判の嵐が起きてしまいます。また政府の考えが甘い上、排出権取引、炭素税(環境税)、など他国では実施されているのに日本では未実施の政策もあります。つまりまだまだやるべきことは残っているということです。
日本は1990年と比較して6%の削減義務に対し、2005年で1990年より7.1%(環境省発表は7.8%)の増加と完全に逆行しています。2006年度は暖冬で前年度より1.3%減少しましたが、それでも基準年より6.4%多いです。つまり義務達成には12.4%の削減が必要です。
まずエネルギー消費に関係する二酸化炭素排出量を90年より0.6%多い水準に抑える目標を立てています。企業努力などで工場などからの排出は横ばい、もしくはやや減少と抑えられてきてます。これは環境税・炭素税反対派を勢い付かせてもいますが…しかし家庭では52.6%増となっていて、総排出量の16%を占めています。また民間会社のオフィスと運輸業界も大幅増となっています。どれも原因は自動車です。家庭では公共交通機関の利用で自動車に乗るのを減らしたり、高燃費の自動車を導入する必要があります。運輸業でも高燃費の自動車や貨物列車等の利用を検討すべきでしょう。オフィスでも節電や鉄道やバスを利用し、自動車による出張や営業を控えることが望まれます。
日本の削減計画でもっともアテにされているのは吸収源活動で、3.9%削減する予定です。しかし森林の宅地化が進んでいてたり(森林の開発は排出量に加算)、保安林維持予算や営林署職員が削減されたりと言っている事とやっている事が違います。なので、予定通りにいくか不透明です。次に多いのが、排出権取引とクリーン開発メカニズムで計1.6%削減します。すでに排出権について2008年にハンガリーが売り出す1000万tの一部を購入する予定です。他には非エネルギー起源二酸化炭素(セメント生産で3540万t、ソーダ石灰ガラス、生石灰、鉄鋼の製造で1530万t、アンモニア製造で310万t等)排出削減で0.3%、廃棄物や下水からでるメタン・亜酸化窒素を処理法の改善などで0.4%、0.5%削減。冷媒などに使われている代替フロンの排出増を0.1%に抑える計画です。日本が削減しなければならないのは12.4%です。しかし、12.4−3.9−1.6−0.3−0.4−0.5+0.1+0.6=6.4、で6.4%が対処不能になっています。そのせいで日本の温暖化対策の評価は先進国中最低で、排出量上位70カ国中61位という評価もあります。
また民間会社のオフィスと運輸業界も大幅増となっています。どれも原因は自動車です。家庭では公共交通機関の利用で自動車に乗るのを減らしたり、高燃費の自動車を導入する必要があります。また家庭がハイブリッド車や家庭用燃料電池を導入する時の補助金などの公的支援を拡充させます。運輸業でも高燃費の自動車や貨物列車等の利用を検討すべきでしょう。オフィスでも節電や鉄道やバスを利用し、自動車による出張や営業を控えることが望まれます。
また家庭や工場・企業については個別に月に使える電力量を設定。超えた場合は超過分の電気代が通常の数倍になるなど飛躍的に高くなるようにします。
さらに欧米のように株式投資の基準に企業の環境対策を入れます。そうして改善の余地があるのに放置している企業へは投資家なら投資をしない、銀行なら融資をしない、一般市民なら生産している商品を買わないようにします。政府はそのような行動の参考資料として、環境対策に積極的・消極的な企業のランキングを作成します。もう約束期間は始まっています。そして現時点では削減義務達成は絶望的です。この事態を打開するには排出を削減せざるを得ない状況を作り出す必要があります。もちろん年金暮らしの老人などへの配慮は必要ですが。
なお、二酸化炭素濃度が上昇しないようにするには、排出量を半減させる必要があります。なので、京都議定書の削減義務を全ての国が果たしたとしても温暖化解決にはほど遠いです。