二酸化炭素地下貯留(以下CCS)は二酸化炭素を地下深くの帯水層に注入し、処分する技術です。帯水層に二酸化炭素を押し込むと溶けて炭酸になります。さらに時間が経つと周りの岩石と反応し、炭酸塩や石灰という形で岩石の一部になります。こうなればもうそう簡単には空気中に戻ることはありません。帯水層の上には水も空気も通しにくいキャップロックという地層があり、反応を終えるまでに漏れ出す心配もありません。しかも二酸化炭素を注入できそうな地層は世界全体で2兆t分以上あります。
他に油田も有力な注入先になっています。しかも二酸化炭素を産油量の落ちた油田に注入すると産油量が回復することがあります。この効果を狙って2006年に世界で3500万tの二酸化炭素が油田に注入されたという試算もあります。
CCSは日本国内でも実験が行われています。すでに2003年から1年半かけて新潟県長岡市の地下1100mの帯水層に1万t近い二酸化炭素を注入することに成功しました。さらにその後の中越地震や中越沖地震でも二酸化炭素は漏れませんでした。予期せぬ形ではありますが、CCSの安全性が実証されたといってもいいでしょう。IPCCもCCSで封印された二酸化炭素の漏れは1000年につき1%以下としています。
また民間企業でも実験が行われ、石油精製などのプラントメーカー日揮の参加しているプロジェクトの海外の天然ガス精製施設で発生した二酸化炭素100万tを海底下1000mの地層に注入することに成功しています。
もちろん、課題もあります。CCSのコストは二酸化炭素1tあたり6000円から8000円とされ、技術革新によって半分程度までコストを削減することが望まれています。さらに一部からは”地下に埋めるだけでは地球上の二酸化炭素の総量は今まで通り増加し続ける”というような批判も出ています。それでも2005年にIPCCは2100年までに削減すべき二酸化炭素排出量のうち15%〜55%がCCSによって削減されると予測しています。
石炭の表面には無数の穴が空いていて自身の体積の30倍から50倍の二酸化炭素を吸収することができます。この性質を利用して日本の炭坑跡地や未採掘の石炭層に大量の二酸化炭素を注入できる可能性があります。この方式は関西電力で実験が進んでいます。まず南港の火力発電所の排出した二酸化炭素を回収します。方法は吸収塔で二酸化炭素だけを取り込む特殊な液体で吸収します。この液体を再生塔で過熱すると二酸化炭素を放出します。これで排煙中の二酸化炭素の9割を回収できます。この回収した二酸化炭素は夕張市に輸送します。炭坑の町だった夕張の地下には今も石炭層が存在しているからです。運び入れた二酸化炭素は高圧にし、パイプを通して地下900mの石炭層に注入しています。注入量は年850tです。石炭層に取り込まれた二酸化炭素は非常に漏れにくく、安全性も充分です。しかも二酸化炭素を石炭層に注入するとそこからメタンガスが押し出されます。これを別のパイプから回収し、燃料として利用できます。
つまり一石二鳥というわけです。
他にもセラミックス・リチウムシリケートというセラミックスは自身の体積の300倍から400倍の二酸化炭素を吸収することができます。このセラミックスを工場や発電所に設置し、排出された二酸化炭素を吸収させる研究が進んでいます。