波力発電は文字通り海の波のエネルギーを利用して発電する方法です。人間にとって波のエネルギーは無尽蔵に等しく、二酸化炭素とも無縁です。実際はごく一部しか使えませんが、米エネルギー省の推計では海全体で2テラワットの電力が生み出せるとされています。また同一面積から風力の5倍、太陽光の20〜30倍の エネルギーが取り出せるといわれています。1平方m当りの太陽光は100wですが、幅1mの波はその1000倍のエネルギーを持っているといわれています。風や太陽光と違って、波は全くなくなることはないので、365日24時間発電可能です。日本の沿岸から30km、水深100mの範囲には原子炉36基分(日本の商用炉は54基)の電力を得られるだけの波力エネルギーがあるという試算もあります。
波力発電はもうすでに航路標識ブイの電源として実用化されています。現在は家庭・工業用電力を生み出す高出力設備の研究が進んでいます。
まず振動水柱形という方式があります。これは空気室に海水を入れ、一部を水没させます。そして波で空気室内の水面が波で上下するときに発生する気流でタービンを回します。構造が単純で、しかも高い耐久性を持っているので現在の主流になっています。
しかし最近、さらなる高効率発電を目指し、神戸大学や科学技術振興機構などがジャイロ式波力発電の研究を行っています。振動水柱形と同じく見た目は海に浮かぶブイです。この中には高速回転するフライホイールがあり、これを波が傾かせたときに発生するジャイロモーメント(例えば回転中のコマを少し傾けても補正し、安定させる力)で直接発電します。途中に水や空気を介さないので、効率は振動水柱形など空気を介す方式が10〜20%なのに対し、ジャイロ式はこの2倍になるようです。
まず日本では国際エネルギー機関との共同研究で海明という浮体式波力発電装置が実験されてました。内部には13室の底の無い空気室があり、ここに波を取り込み、振動水柱形の原理で発電します。海明は全長80m、幅12mのブイになっていて海に浮かべて発電します。山形県鶴岡市由良沖に設置され、1983年から1987年にかけて実験が行われました。結果、年間190メガワットの発電や陸上への送電に成功しました。
他には平成10年から科学技術庁海洋科学技術センターで、マイティーホエールという発電設備が研究されました。このマイティーホエールは海に浮かべて発電する沖合浮体式波力発電装置で、大きさは幅30m、全長50m、高さ12mです。内部には複数の空気室があり、ここに波を取り込み、振動水柱形の原理で発電します。ホエールと付いているのは海水を取り込む様子がクジラが口を開いてエサを食べているように見えるからです。1998年8月から2000年12月まで701日稼動し、平均発電量は1時間で約6kwでした。なお、実験は2002年3月に終了しています。最近では新エネルギー・産業技術総合開発機構が2011年度から78億円を投じて5年間実証実験をしています。
一方、海外ではスコットランド(英国)のオーシャンパワーデリバリー社(OPD)がペラミスという波力発電装置を開発しました。ペラミスは円筒形ユニット4つが連結した蛇のような姿をしています。大きさは長さ140m、直径3.8m、重さ750t、で海に浮かぶ列車状態。各ユニット内部には油圧装置があり、波で連結部が折れるとピストンでオイルが押され、そのオイルで発電機を回します。つくった電力は海底ケーブルで陸上へ送られます。発電量は1機で最大750kw。開発費は約90億円で、スコットランド
政府から6100万円の補助を受けています。ペラミスの利点は浮かんでいるため、壊れても船でどこかに曳航して修理できます。また海の生物にも悪影響を与えません。海上風力発電に比べ、1機の発電量は劣りますが、占有面積当りの発電量は3〜5倍です。また連結部が折れてエネルギーを吸収するので、高波に対する耐久力も高く、実験では28.5mの波にも耐えました。
ペラミスはポルトガル
に販売されることになっており、世界初の商用波力発電装置となります。しかも1kw当たり38円の補助金が提供されるなどポルトガル政府の支援を受けることになっています。商用利用が決定したということで現在、ペラミスは最も成功している装置といえます。今後は北欧、米国、日本など広く他国にも売り込みたいそうです。