メタンハイドレートは水とメタンガスが結び付いた物質で、外見は水の氷に似ています。火を着けるとメタンガスを燃料にして燃え上がるため、"燃える氷"とも呼ばれます。燃えカスは水のみでメタンガスが燃焼時に放出する二酸化炭素は石油の半分なのでクリーンな未来の資源といわれています。
しかし同時に地球環境を破滅へと導く恐怖の爆弾でもあります。ここではその恐ろしい一面の方を紹介します。
まず1930年に北極地方にある天然ガスパイプライン内でガスが固体のガスハイドレートになっているのが発見されました。30年後にはシベリアで永久凍土地帯から沼気という可燃性ガスが出ているのが発見されました。そして1970年にノースカロライナ沖で海底を音波で探査していると海底下600mに未知の音波反射面が発見されました。これはメタンハイドレート層と下に溜まったメタンガス層との境界面でした。その後メタンハイドレートは世界各地で発見されるようになりました。そのメタンハイドレートは主に水深1000mの海底下数百mの地下に存在しています。というよりそのような場所でしか存在できません。海底のメタンハイドレートは0度前後の低温と深海の高圧下でないと存在できず、温度が0℃より数度上がるか、水圧が500m相当より低くなると崩壊し、気体のメタンになってしまいます。(ただし液体窒素などで極低温にすると地上でも保存できます。)
このメタンハイドレート日本の近くにも豊富に存在し、日本海ではメタンハイドレートが海底に露出している地点が発見されています。魚群探知機に海底から数百mの泡の柱が出現しているのが捕らえられたこともあります。またオホーツクでは冬に漂着した流氷が消滅すると水面から放出されるメタンが増加するのが確認されています。これは海底から放出されたメタンが冬の間に流氷の下に溜まり、流氷が融けると一気に空気中に出てくるためです。そしてその発生源の有力候補がメタンハイドレートとなっています。
海底付近のメタンハイドレートは3℃、その他のメタンハイドレートも5℃の気温上昇で崩壊するといわれています。5℃に達しなくても気温が上昇していけばいずれ、ある場所のメタンハイドレートが崩壊し発生したメタンで温暖化が加速。その気温上昇で他の場所のメタンハイドレートも崩壊。それによって放出されたメタンで温暖化が加速し、また別の場所のメタンハイドレートが崩壊、というような誘爆現象が起きる可能性があります。二酸化炭素による温暖化は水に浮いている船に人類がどんどん荷物を投げ込んでいき、船が徐々に沈んでいるような状態です。これに対し、メタンハイドレートによる温暖化は火薬庫の中で火遊びしているような状態といえます。
多分起きないとは思いますが、地球上のメタンハイドレートが全て崩壊すると15兆tのメタンが発生します。メタンは二酸化炭素の23倍の温室効果を発揮しますので、二酸化炭素345兆t(現在の排出量の約1万3000年分)相当の温室効果が働きます。と思われそうですがメタンハイドレートは深海にあるため、空気中に漏れてくるのは2%といわれています。もちろん、それで安心するわけにはいきません。それでも二酸化炭素6.9兆t(現在の排出量の約260年分)相当の温室効果ガスが空気中に放出されることになります。また海中の環境が激変し、生物の大量絶滅が発生します。ある場所の海底にはメタンハイドレート崩壊によって死んだとみられる微生物が折り重なって層になっているのが発見されています。
現在、危ないとみられるのが、北極圏東シベリアのもの。ここには500億トンのメタンが貯蔵されており、2015年から10年で全て放出されたとすると気候変動により世界で60兆ドルの被害が発生するという研究が発表されています。
ただしメタンハイドレートは資源として上手く採掘できれば、逆に強力な温暖化対策になります。温暖化で最凶の爆弾を起爆してしまうか、採掘して最強の味方にするか、それは世界の政策と研究にかかっています。
最凶の爆弾を味方に!!メタンハイドレート