解凍すると自身の体積の164倍のメタンを放出するメタンハイドレートは石油枯渇後の有力な資源です。メタンは燃焼時の二酸化炭素放出量が石油の半分ほどで環境にも優しいうえ、メタンハイドレートの一部としての存在量は15兆tともいわれています。ただ採掘は石炭や石油に比べ、非常に困難です。
メタンハイドレートは海底に露出している地点もありますが、主に水深500mから2000mの海底のさらに地下数百mに存在しています。そのような高圧低温の環境で水とメタンが少しずつ結合してメタンハイドレートとなります。そこでは潜水服ではとても歯が立たない水圧がかかっていて、地上の鉱山のように人間が採掘設備設営などをすることはできません。潜水艇のロボットハンドでも小さな塊をサンプルとして回収するのが精一杯です。また高圧低温という条件が崩れると急速にメタンを放出しながら融けてただの水になってしまいます。なので、遥かな海と地の底から非常に素早く引き上げる必要があります。石油は液体で、しかも周囲から高い圧力がかかっているので回収しやすいです。しかしメタンハイドレートは固体で、しかも石油ほど高い圧力がかかっていません。なので、固体のまま回収するのではなく、次項のように一度気化させて回収する方法が考えられています。
現在、研究中の主な方法はメタンハイドレート層にパイプを刺し込み、熱水や熱い水蒸気を注入します。すると急速に気化してメタンになります。このメタンを別のパイプから回収するという方法です。これと似たような方法で実験も行われています。2002年1月に日本、カナダ、アメリカなど5カ国からなるチームが北極圏カナダのマッケンジー川河口付近で、採掘実験を行いました。ここでチームリーダーだった佐藤徹氏は温水循環という方法を試しました。これはメタンハイドレート層にパイプを刺し込み、熱水を注入します。そして気化して発生したメタンを注入した水に溶け込ませて回収するというものです。実験は成功し、3月にメタンガスを得ることができました。
また上記のようにして得たメタンを天然ガスのように液化してタンカーで大量輸送することも提案されています。ただ液化には莫大なコストがかかります。またアメリカの地質調査所では液化炭化水素に加工して輸送する案も出ていますが、加工時に35%のエネルギーが失われます。
一方、固体の状態で輸送する方法も検討されています。メタンハイドレート層には不純物も含まれています。なので、回収したメタンを海上の高圧容器内部で水と反応させ、純粋なメタンハイドレートを生成したのち輸送することが提案されています。さらに純粋なメタンハイドレートを球状のペレットにすれば-15℃程度でも安定させたまま輸送できます。
あと、採掘後に空いた場所を二酸化炭素の貯留地にする案もあります。
どの方法で採掘するにしても、注意しなければならないことがあります。メタンハイドレートは主に沿岸から水深数千mの深海底へつづく斜面状の地下に存在し、地層を安定させている可能性があります。ヘタに採掘すれば海底で大規模な地滑りが起き、沿岸に最大で高さ15mの津波が押し寄せたり、採掘にかかわる人間や設備が危険にさらされる恐れがあります。
資源が少ない日本ですが、メタンハイドレートは近海に大量に存在し、世界最大規模とまでいわれています。日本海には海底に露出している地点もありますし、九州の南東から四国沖を経て和歌山沖の南海トラフさらに静岡沖へつづく海域が特に多く、またオホーツク海にも存在しています。日本近海の埋蔵量は日本の天然ガス使用量100年分以上とみられます。経済産業省の調査では熊野灘周辺の東部南海トラフだけで1.1兆立方m、日本近海全体では米国エネルギー省の推計で6兆立方mのメタンハイドレートが存在するようです。
日本政府は2016年度には商用利用のための技術開発を完了することを目標にしています。そのために経済産業省の検討委員会がメタンハイドレート資源開発研究コンソーシアムを立ち上げました。そこでは資源量評価分野、生産手法開発分野、環境影響評価分野、に分けて研究が行われています。期間的には3つのフューズに分かれていて、フェーズT(2001年度〜2006年度)では有望な採掘場所・試験地の選定、フェーズU(2007年度〜2011年度)では、採掘試験の実施・環境影響の評価など、フェーズV(20012年度〜2016年度)では商用利用のための採掘技術・経済性の評価、を行う予定です。
民間企業では日本海洋掘削株式会社が水平坑井掘削技術の実験で水深1000mの海底下300mにあるメタンハイドレート層内部を水平方向(横)に100m掘ることに成功しています。
現在、メタンハイドレート開発に関する技術は日本が世界最先端を走っています。化石燃料は価格高騰や枯渇の危険があり、二酸化炭素排出量も多いです。そのうえ、近海にその代わりとなるメタンハイドレートが大量に眠っています。しかし実際の行動では中国や韓国に遅れつつあります。民間では将来の採算性が不透明だとして開発をためらっている企業が多いです。また政府も大規模な予算投入を行うなど国家プロジェクトとして位置づけに欠けています。
中国は採算は後回しと言わんばかりに海南省の三亜に巨大ガス精製施設、三亜−香港間に約800kmのパイプラインを建設する計画を持っています。経済が急成長している中国は日本以上に資源が必要だからです。また韓国は海洋探査で周辺の埋蔵は量自国の天然ガス消費量の30年分(6億t)と推定し、2015年頃までに円換算で300億円の予算を投じる予定です。
メタンハイドレート開発では他に排他的経済水域(EEZ)の広さも重要です。この海域の資源は独占開発することができるからです。毛沢東は日本の記者に"日本には資源が無い"と言われると"日本には海があるではないか"と返したそうです。事実、日本の面積は38万平方kmで世界第60位ですが、
EEZ+領海の面積は447万平方kmで、世界第9位です。このEEZの広さが日本を世界最大規模のメタンハイドレート埋蔵国にしていると言えます。このEEZ探査も日本は消極的です。沖ノ鳥島と南鳥島の周辺、沖ノ鳥島と現在のEEZの間が新たにEEZになる可能性があるにもかかわらず、探査していません。このままでは、世界最大規模のメタンハイドレート埋蔵量も開発技術も宝の持ち腐れになるかもしれません。
そんな日本でしたが、20012年2月15日より愛知県の渥美半島沖約70kmで、探査船ちきゅうを使い、採掘実験を実施。水深1000mの海底に40日で深さ300mの井戸4本を掘り、2013年3月12日にメタン取り出しに成功。量は陸上ガス田の2割に当たる日量2万立方メートル。これで商用化への道が開けるかもしれません。